忍者本これ10冊!

ご無沙汰しております、直之進です。

昨年2015年より忍者ブームが到来し、いつもなら年に2,3冊出るか出ないかという忍者本が、ここ最近は毎月のように出版されています。さらには、わたしの知っている範囲だけでも、今年度中にあと4,5冊は出ます。ここで言う忍者本とは、忍者の研究書です。と言っても、学術的な難しい本だけでなく、単に「小説やマンガなどのフィクションではない忍者を扱う本」程度に捉えて頂ければと思います。

そんな忍者本も、前世紀初頭から現在に至るまで、改装版も含めて200冊近く出版されてきました。今回は、その中から選り抜きの忍者本を紹介したいと思います!

 

まず忍者に興味を持ったらコレ!

子ども向けではありますが、実は忍者の歴史研究をきちんと踏まえた、良質な研究書でもあります。子ども向けに書かれているので、大人ならサクっと読めるでしょう。この1冊で「忍者とは何か」が大人から子どもまで理解できる、そんな本です。

忍者図鑑

忍者図鑑

忍び装束は黒じゃない? 最初に忍者を使ったのは聖徳太子?忍者集団「黒党」の頭領が、これまでの常識を覆す忍者の本当の姿を明らかにする。忍者のルーツから、戦国、江戸、そして現代の忍者に迫る。

 

子どもの頃、もしくは今、「忍たま乱太郎」を見ている!という方も少なくないでしょう。その原作者・尼子騒兵衛氏の描き下ろした忍者本です。全ページカラーでイラスト・写真が豊富。その上、簡潔に忍者の歴史や道具について説明されています。特に忍たまから忍者に興味を持った方には、満を持してオススメしたいところです。ただ非常に残念なことに、最近絶版となってしまいました。古本屋などで探してみて下さい。

乱太郎の忍者の世界

乱太郎の忍者の世界

今でこそ、マンガの主役にもなれる忍者。でもほんとうは人に知られることのない、影のような存在だったんだ。そんな忍者の世界には「?」がいっぱいつまっている。さあ、忍者の世界へ、探険のはじまり、はじまり。

 

最近評価が高いのが『忍者の教科書』です。全ページカラー、写真多めで、ざっくりとした忍者から、ちょっと深いところまで知ることが出来ます。上に挙げた本よりはマニアックな部分もありますが、それだけに読む人の興味を引くのかもしれません。子どもでも理解できるように書かれていますので、読んでいて難しいということはないでしょう。

忍者の教科書: 新萬川集海 (0021)

忍者の教科書: 新萬川集海 (0021)

伊賀・甲賀に伝わる忍術書『萬川集海(まんせんしゅうかい)』を紐解きながら、忍者の歴史、術や道具など、多くの写真とともにやさしく解説します。

 

忍者の研究書ベスト5

次は「忍びの館」らしく、忍者のガチ研究書を紹介していきましょう。

何と言っても今年(まだ終わってないけど)のベスト・オブ・忍者本は、三重大学山田雄司氏による『忍者の歴史』で決まりでしょう。山田氏は2012年後期より三重大学伊賀連携フィールドとして、三重県伊賀市において毎月忍者講座を開催しており、自身はいま最も精力的に忍者研究を行う大学教授です。これまでアマチュアの歴史家による研究書が多かった中、学術的知見を踏まえて、”忍者”について、様々な史料を引用しながら述べていきます。2016年以後の忍者研究は、この本を基盤・出発点として、進んでいくことになると思います。本格的に忍者を調べてみたいと思う人、必読の書です。

忍者の歴史 (角川選書)

忍者の歴史 (角川選書)

黒装束を着て手裏剣を持ち、忍術を使い屋敷に忍び入る―。これらは、近世以降、小説や芸能の世界で作られてきた忍者のイメージに過ぎない。それでは実際、南北朝時代から活躍していた忍者とは一体何者なのか?ある時は敵国へ侵入し、放火、破壊、情報収集をおこなう戦闘員、またある時は大名屋敷や百人番所の警備員…。これまで解明されることのなかった忍者の実像を、歴史資料の研究によって明らかにする!

 

次は時代を半世紀さかのぼって昭和の忍者本です。昭和の忍者本は出典が小説か妄想か分からないような本が多いのですが、この本は冷静な(むしろ批判的な)視点で調査研究がなされ、記述されています。良著と言って相違ないでしょう。またこの本の特徴として、当時の一般人の抱く忍者のイメージから始まり、忍者の歴史を伊賀・甲賀の史料から紐解きながら、最終的には空想の世界の理想の忍者を論じて終わる、異色の忍者本でもあります。

 

月刊誌『歴史読本』は、創刊最初の頃から、扱うテーマの1つとして忍者がありました。歴史読本は玉石混交の感がありますが、この3冊は、小説家ではなく、一般の忍者研究家が多く寄稿しています。その分、内容としては高いクオリティになっています。当時の忍者研究の最前線は、この歴史読本の忍者特集号で読むことが出来た、と言って良いでしょう。雑誌なので基本的に絶版になっていますが、『伊賀・甲賀 忍びの謎』はKADOKAWAの新人物文庫に収録されています。歴史読本自体は、惜しまれつつ2015年をもって休刊となってしまいました。

影の戦士の真実を暴く 伊賀・甲賀 忍びの謎 (新人物文庫)

影の戦士の真実を暴く 伊賀・甲賀 忍びの謎 (新人物文庫)

「秘蔵の国」伊賀に発祥した伊賀忍び。山岳修験の流れをくむ甲賀忍び。伊賀・甲賀の里に割拠する土豪らが身につけた特異な兵法は戦国大名に重宝された。服部半蔵百地丹波ら「影の戦士」たちの謎と真相に迫る。

 

  • 『忍者の生活』(山口正之、雄山閣、1963年)

2015年にも新装版(『忍びと忍術』)が出るなど、版を替えて長く刊行され続けている良著です。忍者の歴史や、今に残る忍術伝書など、忍者について体系的に書かれた最初の本ではないでしょうか。これも昭和中頃に書かれた本ですが、今読んでも忍者の理解の助けとして、十分活用できると思います。

忍びと忍術―忍者の知られざる世界 (雄山閣アーカイブス歴史篇)

忍びと忍術―忍者の知られざる世界 (雄山閣アーカイブス歴史篇)

  • 作者: 山口正之
  • 出版社/メーカー: 雄山閣
  • 発売日: 2015/11

雄山閣アーカイブス創刊!第一弾、忍者の実像に迫る!『忍者の生活』を再編集し、新装版として刊行。諜報特殊部隊の原形を見る!

 

5冊目はちょっと悩みましたが、読みやすい本として、この本を挙げたいと思います。磯田道史氏は今やNHK-BS「英雄たちの選択」で司会を務めるなど、有名な歴史家です。その磯田氏は2005年頃から忍者に興味を抱いて少しずつ調べていたそうです(本人談)。2009年に読売新聞のコラム「古今をちこち」で忍者の研究をしていると明言、それ以降の忍者に関するエッセイや研究成果がまとめられています。磯田氏の忍者研究は山田氏に先んじ、それゆえに忍者研究界隈では、良い意味で大きな刺激となりました。古文書を濫読してきた磯田氏の視点から、学術的手法にも則りつつ、忍者の実生活を明らかにしていく同書は、これまでとは異なる忍者研究の方向性を指し示しています。磯田氏はまだ忍者だけの単行本は書いておらず、発刊が待たれます。

歴史の愉しみ方 - 忍者・合戦・幕末史に学ぶ (中公新書)

忍者の子孫を訪ね歩き、東海道新幹線の車窓から関ケ原合戦を追体験する方法を編み出し、龍馬暗殺の黒幕を探る―。著者は全国をめぐって埋もれた古文書を次々発掘。そこから「本物の歴史像」を描き出し、その魅力を伝えてくれる。同時に、歴史は厳しいものでもある。地震史研究にも取り組む著者は、公家の日記などから、現代社会への警鐘を鳴らす。

 

この他にも、歴史系出版社の吉川弘文館から出た『〈甲賀忍者〉の実像』(藤田和敏、吉川弘文館、2011年)、伊賀の郷土史研究の大家・久保文武氏の論考集である『伊賀史叢考』(久保文武、1986年)は、忍者の論考を(卒論でも何でも)書いてみたい&読んでみたいと思っている人にとっては、必読の書でしょう。

 

忍者の資料・史料

昨年2015年の忍者界トップニュースは、大部の忍術伝書である「萬川集海」の完全現代語訳本が遂に出たことだと思います。忍者モノの小説やマンガでも、参考資料として使われることの多かった「萬川集海」ですが、これまできちんとした現代語訳本はありませんでした。同書には現代語訳、書き下し、原本の縮小印刷まで載っており、極めて価値のある本です。忍者を調べる目的だけでなく、創作のネタ本としても重宝されています。

完本 万川集海

完本 万川集海

伊賀と甲賀に伝わる四十九流の忍術を集大成した秘伝書。知謀計略から天文、薬方、忍器まで、忍びの業のすべてを明らかにする。初の全文現代語訳、詳細な註のついた読み下しに加え、資料として原本の復刻を付す。

 

 最後に紹介するのは、滋賀県三重県自治体史です。特に、甲賀衆に関する史料を多数収録した甲賀郡志』(甲賀郡教育会、1926年)、中世甲賀武士を代表する山中文書の半分近くを翻刻・掲載した『水口町志』(水口町、1959年)伊賀忍者に関する史料を多数収録した伊賀市史』(伊賀市、2011年~)、複雑な中世・近世の甲賀武士についてまとめ上げた甲賀市史』(甲賀市、2007年~)が有用です。忍者を調べるに当たっては、良い資料集となるでしょう。

 

以上、オススメの忍者本紹介でした。まだまだこれからも、忍者研究に関して面白い本が出てくることと思います。今後の刊行にも期待したいところですね!